梅雨の時期に体調を崩しやすいのはなぜ?原因と対策を分かりやすく解説

梅雨の時期になると、「なんとなく調子が悪い」と感じることはありませんか?
頭痛や関節の痛み、だるさ、さらには気分の落ち込みなど、心身にさまざまな不調が現れやすくなる季節です。「毎年のことだから」とあきらめてしまっている人も少なくありませんが、その“なんとなく”の放置こそが、慢性的な不調を招く原因になっている可能性があります。
今回は、梅雨時期の体調不良の主な原因と、日常生活で取り入れやすい対策をご紹介します。まずは原因を知ることから始め、少しずつ体と心を整えていきましょう。
目次
梅雨に現れる不調の原因
梅雨の不調にはさまざまなタイプがあり、原因も一つに絞れるものではありません。症状によって異なる要因が関係しているほか、複数の原因が絡み合って不調を引き起こしていることもあります。
不調を招く主な原因としては、以下の通りです。
・日照時間の減少
・運動不足
・湿度の上昇
・気圧の低下
・気温の低下(梅雨寒)
それぞれについて、見ていきましょう。
日照時間の減少
梅雨の時期は雨や曇りの日が多く、日照時間が大幅に減少します。この日光不足は、私たちの心身にさまざまな影響を与えることが知られています。
特に注目したいのが「セロトニン」という神経伝達物質です。セロトニンは、トリプトファンというアミノ酸を材料に体内でつくられ、日光を浴びることで分泌が促進されます。この物質には気分を安定させたり、リラックス感や幸福感をもたらしたりする働きがあるため、「幸せホルモン」とも呼ばれています。ところが、日照時間が少なくなるとセロトニンの分泌が減り、気分が落ち込みやすくなったり、精神的に不安定になったりすることがあります。
さらにセロトニンは、睡眠を調整するホルモン「メラトニン」の生成にも関わっています。セロトニンの減少はメラトニンの合成にも影響を及ぼし、睡眠の質の低下や自律神経の乱れを引き起こす原因となることがあります。実際に、日照時間の長さとうつ病や自殺の発生率とのあいだには相関があることが、大規模な調査でも示されています。こうしたことからも、梅雨時の「日光不足」が心身に及ぼす影響は決して小さくないといえるでしょう。
運動不足
梅雨の時期は雨の日が続くため、外での運動はもちろん、ちょっとした買い物や散歩に出かける機会も減りがちです。その結果、自然と体を動かす機会が減少し、運動不足に陥りやすくなります。運動量が減ると血流が滞り、基礎代謝が低下しやすくなります。これが原因で、体が冷えやすくなったり、睡眠の質が悪化したりといった不調につながることがあります。
さらに、質のよい睡眠がとれない状態が続くと、自律神経が乱れやすくなり、胃腸の働きにも影響を及ぼす可能性があります。消化不良や胃酸過多、下痢や便秘といったトラブルが起こりやすくなるのです。
近年では、腸と脳が密接に影響し合っていることが「脳腸相関」という概念で注目されており、腸の状態がメンタルヘルスにも関係していることがわかってきています。梅雨の時期に心身のバランスを崩しやすくなる背景には、こうした仕組みも関係していると考えられます。
湿度の上昇
梅雨の時期は湿度が高く、外の湿気が室内にも入り込みやすくなります。とくに通気が悪かったり、湿度の調整がうまくできていなかったりする空間では、カビやダニが繁殖しやすくなります。これらの微生物を吸い込むと、喘息やアトピーなどのアレルギー症状が悪化する原因になることがあります。
また、湿度の上昇が体に与える影響はそれだけではありません。空気中の湿気が多いと、体の中にたまった余分な水分がうまく排出されにくくなり、むくみやだるさを感じることもあるといわれています。さらに、湿気が高い環境では汗が蒸発しにくくなるため、体温の調整がうまくいかず、不快感を覚えたり、体調を崩すきっかけになることもあります。
こうした湿気の影響にも注意が必要です。
気圧の低下
梅雨の時期は、梅雨前線の停滞や気象の影響によって、低気圧の日が多くなります。
私たちの身体は、ふだん外からかかる気圧に対して、内側からも押し返す力を働かせることで、体のバランスを保っています。しかし、低気圧になると体の外側からの圧力が弱くなり、相対的に内側からの力が強くなります。すると、血管が拡張しやすくなり、体がリラックスモードへと傾いて、副交感神経が優位になりやすくなるのです[※]。副交感神経が優位になることは、本来は睡眠や休息の際に役立つ良い働きですが、日中の活動中に強く働くと、頭が重く感じたり、だるさを覚えたりといった不調を引き起こすことがあります。
※. 血管の膨張は、血圧の低下を引き起こす可能性があります。そのため、体は血圧を正常に戻そうとして交感神経を優位にする場合もあります。どちらの神経が優位になるかは、自律神経のバランスや個人差、気圧の変化の程度など、様々な要因によって左右されます。
気温の低下
梅雨というと蒸し暑いイメージがありますが、地域によっては「梅雨寒(つゆざむ)」と呼ばれる気温の低下が見られることがあります[※1]。これは北東からの冷たい風(北東気流[※2])の影響で、特に東北や関東などの太平洋沿岸部でよく起こる現象です。
このような梅雨寒によって気温が下がると、体が冷えやすくなり、血流が悪くなることで肩こりや腰の痛みが悪化したり、体が重くだるく感じたりする人もいます。また、体温が下がることで免疫機能が低下し、風邪をひきやすくなることもあるため注意が必要です。さらに、気温の急激な変化は自律神経のバランスにも影響を与え、頭痛やめまいといった症状を引き起こすことがあります。とくに寒暖差に敏感な方は、こうした気候の変化に体調を左右されやすい傾向があるようです。
※1. 例えば、宮城県仙台市では梅雨に肌寒い日があるのは普通のことで、年によっては最高気温が19.0℃ほどにまで落ち込むこともあるようです。この気温は、長袖シャツの上にカーディガンを羽織るとちょうど良いと感じられるような寒さです。
※2. オホーツク海付近の高気圧から吹き出す、冷たく湿った風のこと。別名「ヤマセ」。
増加傾向にある気象病患者
季節や気候、天気など、気象の変化によって引き起こされる心身の不調を総称して「気象病」と言います。気象病がカバーする範囲はとても広く、たとえば梅雨時期の頭痛やだるさ、春の花粉症、夏の夏バテなども含まれます。こうして見てみると、私たちは1年を通して何らかの気象病に悩まされているとも言えるでしょう。
近年、この気象病に悩む人は増加傾向にあり、国内だけでも潜在的な患者数は1,000万人を超えるとも言われています。背景にはさまざまな要因がありますが、大きくは次の3つに分けられます。
地球環境要因(異常気象の増加) | 地球温暖化の影響で、気圧や気温の急激な変化が頻繁に起こるようになっています。大型化する台風や、長く停滞する梅雨前線など、極端な気象条件が体調不良のリスクを高めています。 |
社会変化要因(高齢化社会の進展) | 高齢になると、体温調節や自律神経の働きが弱まり、気象の変化に対する抵抗力が低下します。高齢化が進む日本では、気象病を訴える人が増えるのは自然な流れとも言えます。 |
個人の体調要因(自律神経の乱れ) | 現代社会では、ストレスや睡眠不足などが自律神経のバランスを崩しやすい状況にあります。特にスマートフォンやPCの長時間使用は、身体の緊張状態を高め、自律神経の過剰な働きを引き起こしていると考えられています。 |
中でも、私たちがもっとも優先して取り組むべきは「個人の体調要因」。特に鍵となるのが、体のバランスを司る“自律神経”です。
梅雨の不調を予防する基本対策
梅雨の体調不良を予防し、快適な生活を送るためには、自律神経を整えることを中心に、湿気問題などにも対応した総合的なアプローチが必要です。
具体的には、以下のような取り組みを実践されることをおすすめします。
日中に意識的に光を浴びる
梅雨時の体調不良を予防するためには、日中に意識的に光を浴びることが大切です。
とはいえ、雨や曇りが続く梅雨の季節は、日照時間が少なく、十分な自然光を取り入れにくいこともあります。そのようなときには、高照度の光を利用したライトセラピーが有効です。これは、特殊な照明機器から放たれる高照度の光によって、セロトニンの分泌が促進され、気分の安定や睡眠の質向上に役立つとされています。特に朝の時間帯に使用することで、体内時計のリズムを整える助けにもなります。
適度な運動を取り入れる
梅雨の時期は雨の日が多く、外出の機会が減ることで、どうしても運動不足になりがちです。そんなときには、室内でできる軽いエクササイズが有効です。
ストレッチやヨガなどは無理なく続けやすく、梅雨時の運動習慣としておすすめです。こうした「ちょっとした運動」は、血流を促し、自律神経の乱れを整える効果があり、体調管理に大きく役立ちます。また、家事などの日常生活の“動き”に運動を取り入れる工夫も有効です。さらに、リズミカルな運動はセロトニン分泌を促進する効果があるため、気分の安定にもつながります。
規則的な生活リズムを保つ
「就寝時間・起床時間・食事時間」の3つを規則的に保つだけでも、体内時計が整いやすくなり、メラトニンの適切な分泌が促されます。体内時計のリズムが整うことで、セロトニンの生成やメラトニンの合成がスムーズになり、消化・代謝・免疫機能の維持にも良い影響をもたらします。
このリズムを保つためには、就寝前のスマートフォンやパソコンの使用を控え、心身がリラックスできる環境を整えることも効果的です。特に近年は、SNSの長時間利用などによってデジタル依存が進み、睡眠の質や生活リズムを乱す一因になっていると指摘されています。
以下の記事では、そうしたデジタル依存を見直すためのヒントが紹介されています。ぜひ参考にしてみてください。
【「デジタルデトックス」とは?デジタルツールの過剰使用による弊害】
https://www.nihon-trim.co.jp/media/33077/
湿気対策を徹底する
除湿機やエアコンの除湿機能を活用して、室内の湿度を40~60%程度に保つよう心がけましょう。また、定期的な換気も欠かせません(1時間に1~2回、1回あたり10分程度)。雨の日でも、窓を少し開けたり換気扇を回すことで「空気の流れ」を作り、室内に浮遊するカビの胞子や湿気を外へ逃がすことができます。
さらに、湿気がこもりやすい場所には、除湿剤や炭などの吸湿アイテムを設置すると効果的です。特に、押し入れやクローゼットのように風通しの悪い空間では、こうした対策が必要不可欠です。
湿気対策は、体調管理だけでなく、快適な住環境づくりにもつながります。余分な湿気を取り除くことで、心も体もリラックスできる空間を整えていきましょう。
気温変化に備える
薄手のカーディガンや膝掛けなどを常備しておくと、冷えを感じたときにすぐに体を温めることができます。また、寝具やパジャマも季節に合ったものを選び、夜間の冷え込みに備えることが大切です。エアコンや扇風機を適度に活用して室内の温度を快適に保ちつつ、冷やしすぎには注意しましょう。
肌寒さを感じる日には、温かい飲み物で体の内側から温めるのも良いでしょう。ただし、カフェインを含む緑茶やコーヒーなどは、かえって体を冷やしてしまう場合があるため、飲み物の選び方には注意が必要です。最も手軽で取り入れやすい飲み物としては「白湯(さゆ)」がおすすめです。
以下の記事では、白湯の基礎知識について詳しく紹介していますので、興味のある方はぜひご覧ください。
【ただのお湯とは違う!?温活に役立つ「白湯」の基礎知識】
https://www.nihon-trim.co.jp/media/29638
水分補給をこまめに行う
梅雨時に多く見られる体調不良の一つに「むくみ」がありますが、その対策として有効なのが適切な水分補給です。
一見すると、水分を摂ることでむくみが悪化するように思えますが、実はその逆で、十分な水分を摂ることで体内の水分バランスが整い、余分な水分が尿などとして排出されやすくなるのです。ただし、むやみに大量の水を飲めばよいというわけではありません。摂りすぎはかえってむくみを悪化させる可能性もあります。水分の適切な摂取量は体格や年齢、日々の活動量によって異なりますが、目安としては「1日あたり約1.2リットル[※]」を意識してこまめに飲むと良いでしょう。
※. 食事に含まれる水分を除いた飲み水としての量
さいごに
梅雨時期の不調が「気圧の低下」に起因している場合、その辛さを周囲の人々に理解してもらうのが難しいことがあります。中には「天気が悪いくらいでそんなに辛いの?」や「それって仮病じゃない?」など、心無い言葉をかけられることもあるでしょう。そんな時に、気圧の変化が体に与える影響をしっかり理解していれば、そのメカニズムを説明することで、相手の無理解や偏見から自分を守ることができます。
また、逆にそのメカニズムを理解していれば、相手の不調に対して配慮を示したり、辛さを理解してあげることができ、相手を中傷や誤解から守ることにも繋がります。相手の不調に対する理解は、その人を理解することに直結します。
梅雨の不調に悩まされている人は、きっと周りにも多くいるはずです。この時期を通じて、そうした人たちへの優しさや配慮を深めることができる良い機会になるかもしれません。
- 監修者のご紹介 -
参考文献
文部科学省後援「健康管理検定|低気圧が発生しやすく日照時間が減少する梅雨に起こりやすい症状と対処法」
https://kentei.healthcare/column/1606/
山梨県厚生連健康管理センター「「トリプトファン」を摂って、しあわせホルモン「セロトニン」を増やそう!」
https://www.y-koseiren.jp/column/season/3224
大原薬品工業「けんこう名探偵|ワン太郎が教える「健康のヒミツ」vol.1(2)」
https://www.ohara-ch.co.jp/meitantei/vol01_2.html
ウェザーニュース「冬期うつ セロトニンが激減する冬に気をつけたい」
https://weathernews.jp/s/topics/202301/200125/
森整形外科リハビリクリニック「運動不足も解消!自律神経を整える運動を紹介」
https://www.moriseikei.or.jp/blog/jiritsushinkei_unndoubusoku/
ブレインケアクリニック「胃が痛い・消化不良…その原因は自律神経のバランス崩れ!?簡単ケア方法を徹底解説」
https://brain-care.jp/blog/2024/06/03/胃が痛い・消化不良その原因は自律神経のバラ/
横浜弘明寺呼吸器内科クリニック「喘息・アレルギーを悪化させない、カビと掃除の注意点」
https://www.kamimutsukawa.com/blog2/kokyuuki/378/
北海道セキスイハイム「ダニが繁殖しやすい温度・湿度は?季節ごとのダニ対策を紹介」
https://www.hokkaido-heim.com/column/4775/
メディカルジャパン立川「梅雨のむくみ対策:湿度や気圧変動によるむくみの原因と予防法」
https://tatikawa-treatment.com/staff-blog/24984/
わだ内科・胃と腸クリニック「梅雨型熱中症とは」
https://wada-cl.net/blog/梅雨型熱中症とは/
せたがや内科・神経内科クリニック「自律神経のしくみ②:交感神経と副交感神経」
https://setagayanaika.com/blog/1020
文部科学省後援「健康管理検定|低気圧が発生しやすく日照時間が減少する梅雨に起こりやすい症状と対処法」
https://kentei.healthcare/column/1606/
頭痛ーる「気圧の変化でなぜ体調不良が起こるの? 気圧が自律神経に与える影響と対処法」
https://zutool.jp/column/basic/post-16174
マリンウェザー海快晴(うみかいせい)「梅雨到来!梅雨シーズンの天気の特徴と注意点は?」
https://www.umikaisei.jp/news/surflegend/66428
ダイヤモンド・オンライン「天気が原因で体調を崩す「気象病」の深刻、潜在患者は国内1000万人以上!」
https://diamond.jp/articles/-/307534
ブライトライト専門店「NHK「あさイチ」の「セロトニン大作戦」でブライトライトME+が紹介!」
https://brightlight-store.ovtp.net/topics/nhkasaichi.html
医療法人社団 平成医会「セロトニンの増加が心身に及ぼす効果」
https://heisei-ikai.or.jp/column/serotonin/
アイリスオーヤマ「+1DAY|快適な湿度とは?ジメジメ・カラカラをコントロールして健康的な空間に近づけよう」
https://www.irisohyama.co.jp/plusoneday/electronics/76
株式会社ツムラ「冷えやむくみに効果的な体を温めるお茶の選び方」
https://www.tsumura.co.jp/brand/kampo-communication/health-care/medicinal-meal007.html
メディカルジャパン立川「梅雨のむくみ対策:湿度や気圧変動によるむくみの原因と予防法」
https://tatikawa-treatment.com/staff-blog/24984/
動画「ミヤテレNEWS NNN|【解説】『梅雨寒』という日が今年あまりないのはなぜ?<蒸し暑い理由>を気象予報士が解説(宮城)」
https://www.youtube.com/watch?v=LZ3XSnPUcGY
書籍「なんだか調子が悪いのは「天気痛」かもしれません」佐藤純 著
