雪は食べられる?キレイな雪でも食べてはいけない理由 | 水と健康の情報メディア|トリム・ミズラボ - 日本トリム

雪は食べられる?キレイな雪でも食べてはいけない理由

2003年に大ヒットした恋愛ドラマ「冬のソナタ」。そのワンシーンに、ユジンとミニョンがじゃれ合いながら「雪を食べる」シーンがあります。当時、このドラマにハマっていた多くの女性は、このシーンをドキドキしながら観ていたことでしょう。「自分もこんな恋愛をしてみたい…」このドラマを観て、こう思わない人はいないはずです。しかし、いくら強いあこがれを感じていたとしても、このシーンを再現するのはやめた方がよいでしょう。雪は眺めたり遊んだりする分には問題はありませんが、食べるとなると、いくつかの問題があるからです。

今回は雪を食べてはいけない理由について、解説をしていきます。

雪の正体とは?

多くの人は「雨が冷えると雪になる」といった、大まかなイメージを持たれているのではないでしょうか?あながち間違っているとは言い切れませんが、その大まかなイメージが「雪は食べてもいい」という発想に繋がっているようなら、改める必要があります。

では、雪は何を元に、どのようにして形成されるのでしょうか?この答えを理解するためには、雲や雨の形成から学ぶ必要があります。

まず、雲の形成ストーリーは、地表近くにある湿った空気が上昇気流に乗って、上空に持ち上げられるところから始まります。上空に持ち上げられた空気は温度が低下し、それによって空気中に含ませることのできる水蒸気の量が減少します。つまり、空気中の水蒸気は、液体の粒子である「小さな水滴」に変化するわけです。これは「凝結」あるいは「凝縮」と呼ばれる現象の一種で、「水蒸気を冷やすと水になる」という原理になります。

こうしてできた水滴、あるいは、それらがより冷やされてできた固体の粒子である「氷晶」が、下からの上昇気流に支えられてフワフワと密集して浮いているものが雲です。ただし、空気中の水蒸気はただ冷やされただけでは、なかなか水滴にはなりません。水蒸気の凝結を促すには、水滴の核となる物質が必要になります。例えば、雪だるまを作る場合、最初に堅くて小さな球を手で作り、それを転がしていくことで雪が肉付けられ、段々と大きくなります。これと同じように、水滴への形態変化も核があった方が、よりスムーズになるわけです。この核のことを「凝結核」と言い、塵やホコリといった、いわゆる「エアロゾル[※1]」と呼ばれるものが代表的な凝結核の物質に挙げられます。このエアロゾルは、氷晶の形成を促す「氷晶核(氷核)」としても働きます。

水滴や氷晶は、これらの核を中心に次々と水蒸気を取り込んで大きくなり、やがて上昇気流では支えられなくなって、重力によって落下します。落下の最中には、空気中に漂っているエアロゾルなども取り込んでいきますので、地上に到達する頃には、一層汚れることになるわけです[※2]。こうして地上に落ちてきた水滴のことを「雨」、氷晶のことを「雪」と呼んでいます。

いかがでしょうか?これが雪の正体です。ここまでの説明では、まだ「雪を食べてはいけない決定的な理由」を示せていませんが、少なくとも「あまりきれいなものではない」ということは、お分かり頂けたのではないでしょうか?

この他にも雪を食べないほうが良い理由がありますが、次は雪の成分について触れています。もう少し詳しく見ていきましょう。

※1. 大気中に存在する微粒子の総称
※2. 雪の汚れ度合いは、国や地域によっても異なります。

雪の成分

上記の説明では、雪に塵やホコリなどのエアロゾルが含まれている可能性があることをお伝えしました。皆さんの中には、「塵やホコリくらいなら、食べても気にならない」と考える人がいるかもしれませんが、実際には塵やホコリだけではなく、他の成分も含まれていることがあります。それらの成分を具体的に知れば、おそらく誰もが雪を食べようとは思わなくなるでしょう。

以下は、雪の成分の一例です[※]。

・自動車の排気ガス(NOx、SOxなど)
・工場の排出物(PFASなど)
・森林火災などによる黒色炭素
・土壌粒子(黄砂など)
・鉱物粒子(火山灰など)
・細菌(植物病原菌など)
・花粉 など

このように、不純物の含有リスクがある雪ですが、これはあくまでも「降ってくる雪の成分」です。

「地上に積もった雪」は、地上にある汚物の影響を受けて、さらに不衛生な状態になる可能性があります。

・自動車の排気ガス(車道に近い場合など)
・汚泥のしぶき(車道に近い場合など)
・動物との接触の可能性(糞尿などを含む)
・たばこの吸い殻
・人家などから排出されたホコリ
・昆虫の死骸
・凍結防止剤、融雪剤 など

大人の方は、汚いところに積もった雪をむやみに食べたりはしませんが、子供は積もっている場所に関係なく、おもしろ半分で食べてしまうことがありますので、注意しなければいけません。また、ペットも雪をなめたり食べたりする可能性がありますので、積雪のある道で散歩をさせる場合には、注意が必要です。

※. これらの成分は、すべての雪に必ず含まれているわけではありません。また、含まれていたとしても、その濃度は国や地域によって異なります。

雪山での遭難時には

仮に雪山で遭難してしまった場合、水分補給はどうすればよいのでしょうか?近くに水源がない差し迫った状況では、必然的に雪から水分を補給せざるを得ません。しかし、そのような場合であっても、雪を直接食べてはいけません。この注意喚起の程度は「食べない方が良い」といった助言のレベルではありません。むしろ「絶対に食べてはいけない」といった警告のレベルになります。

喉が渇いたからといって、雪を直接食べてしまうと、次のような状態に陥ります。

・唇が破けて出血し、痛みを伴う
・口内に水ぶくれができる
・体温が奪われる(低体温症のリスク)
・体温を戻そうとして体力を消耗する
・体温低下による下痢を引き起こす
・下痢による脱水症状で死亡リスクが高まる

実際、1972年に起きた「ウルグアイ空軍機571便遭難事故[※]」では、生存者の一人であるナンド・パラード氏が喉の渇きから、雪を食べてしまい、とんでもないことになったと再現ドキュメンタリー番組で回想されています。彼らはその後、飛行機の座席シートからアルミ板をはぎ取り、太陽熱で雪を溶かして水を確保したそうですが、同じ状況でもない限り、アルミ板は手に入りません。

比較的、携帯の可能性があるものとしては、ペットボトルなどの「フタつき容器」が考えられます。幸運にもそのような容器を携帯していた場合には、その中に雪を詰め込み、それを服の間に入れて(肌に直接触れないようにして)体温で雪を溶かし、その水を飲むようにしましょう。また、黒いゴミ袋があれば、その上に雪を乗せることで太陽熱が伝わりやすくなり、より早く雪を溶かすことができます。

不運にもそういったアイテムがない場合には、「手」を使って雪を溶かし、その水を飲むようにしましょう。このやり方で水を確保しようとすると、手にはそれなりのダメージを負うことになりますが、直接雪を食べることによって受ける体のダメージに比べれば、いくらかマシだと言われています。

最終的に「手」も使えなくなった場合には、雪を口に運ばざるを得ませんが、それでもそのまま雪を食べてはいけません。かなり辛いと思われますが、まずは口の中で雪を溶かし、その水をできるだけ常温に近づけてから飲み込むようにしましょう。

ちなみに、0℃の雪や氷1gを0℃の水に変えるには、約80カロリーものエネルギーが必要になると言われています。片手ですくった雪を200g、バナナ1本を80キロカロリーとした場合、ひとすくいの雪を食べると、単純計算でバナナ1/5本分のエネルギー(16キロカロリー)が消費されることになります。食料が限られる中(無い中)、たったひとすくいの雪で16キロカロリーものエネルギーを消耗することは、かなりの痛手と言えるでしょう。

雪山での遭難時に水分補給をする場合には、雪を食べてはいけません。必ず溶かした水を飲むようにしましょう。

※. ウルグアイのラグビーチームを乗せた飛行機が、アンデス山脈に墜落した事故。生存者たちは生還するために究極の手段を余儀なくされました。当時の状況は、映画「生きてこそ」で知ることができます。

さいごに

「雪化粧」や「銀世界」、「ホワイトクリスマス」、「雪のような肌」など、雪には美しく神聖なイメージがあります。こういった雪のイメージは、人々の心を落ち着かせたり華やかな気分にさせてくれますが、その一方で、ある勘違いを引き起こします。それは「雪は清潔で無害なもの」という勘違いです。こういった勘違いをしてしまうのは、「美しいものは、たいてい清潔で無害である」という、個人の偏った思い込みがあるからなのかもしれません。しかし、実際には、美しくても不衛生で、体に良くない成分を含んでいるものは多くあり、雪もその一つと言えます。

また、私たちが日常的に使用するものの中では、水もその一つに挙げられ、一見キレイに見えても有害な物質を含んでいる場合があります。最近では、PFASやトリハロメタンに対する危機感から、水はしっかりとろ過してから飲みたいと思う人が増えているようです。

水をきれいにろ過するには浄水器や整水器の設置が有効ですが、ろ過性能は製品ごとに異なりますので、しっかりと調べたうえで活用しましょう。


参考文献

気象庁気象研究所「雲の微物理過程の研究」

https://www.mri-jma.go.jp/Dep/typ/araki/cloud_microphysics.html

徳島県HP「酸性雨について」

https://www.pref.tokushima.lg.jp/ippannokata/kurashi/shizen/2005011900057

GIGAZINE「「雨水を飲む」行為は地球上のあらゆる場所で危険という研究結果、「永遠の化学物質」が原因」

https://gigazine.net/news/20220810-rainwater-drink/

サイエンスポータル「雨雲が水分をどれくらい含みすぎて雨を降らせているのかが、初めてわかった」

https://scienceportal.jst.go.jp/newsflash/20190306_01/index.html

AFPBB News「雨や雪の形成には生物有機体が重要な役割を果たす、米研究報告」

https://www.afpbb.com/articles/-/2359195

アイエフテクノサービス株式会社「井戸ポンプ情報局|非常時の水分補給としてもNG? 雪を食べてはいけない理由」

https://www.idopump.com/joho/trouble/856.html

株式会社 山と溪谷社「山と溪谷オンライン|体力を消耗するだけ!- 雪山で雪を食べるといろいろとまずい話」

https://www.yamakei-online.com/yama-ya/detail.php?id=55

NIH(Gabriel Guarany de Araujo, et al)「Survival and ice nucleation activity of Pseudomonas syringae strains exposed to simulated high-altitude atmospheric conditions」

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6533367/

CHEMICAL & ENGINEERING NEWS「PFOA in rain worldwide exceeds EPA advisory level」

https://cen.acs.org/environment/persistent-pollutants/PFOA-rain-worldwide-exceeds-EPA/100/i27

動画「Alive in the Andes | Trapped」DangerTVチャンネル

https://www.youtube.com/watch?v=bznZh4Grmxc

動画「雪山で遭難しても雪を食べてはダメな理由」Discovery Japanチャンネル

https://www.youtube.com/shorts/doxG2npoF00

書籍「ついつい誰かに話したくなる雑学読本」王様文庫 出版