精進料理とは?使ってはいけない食材や作法について | 水と健康の情報メディア|トリム・ミズラボ - 日本トリム

精進料理とは?使ってはいけない食材や作法について

近年、精進料理は究極のヘルシーフードとして注目されています。特に海外のベジタリアンやヴィーガンの方々にとっては、日本文化と植物性料理の両方を一緒に楽しめるとして人気があります。また、国内においてもダイエット料理や節約料理の一つとして、雑誌などでもよく取り上げられているようです。

しかし、そもそも精進料理というものは、健康や節約などを追求して誕生したものではありません。そこには長い歴史と、仏教の奥深い精神性が含まれています。

今回は「精進料理」の由来や作法、定番の一品、使ってはいけない食材などについて解説をしていきます。

精進料理とは?

精進料理とは仏教の教えに基づく、肉類や魚類を使わない植物性の食事のことを指します。日本での起源は禅宗の寺院にあり、僧侶たちの食事として発展してきました。

素材は、野菜や果物、穀類、山菜、海藻、大豆加工品などが中心で、五味五色五法[※]という考え方に基づき、さまざまな味や色、調理法でバランス良く構成されます。また、四季折々の旬の食材を用いることで、自然の恵みや生命を大切にするという精神も表現されています。全体として、精進料理は身体だけでなく、心も浄化するという思想が込められています。

※. 五味は「甘・酸・辛・苦・塩」、五色は「赤・青(緑)・黄・白・黒」、五法は「生・煮る・蒸す・揚げる・炒める」を指します。これらを食事に取り入れることで栄養バランスの良い、かつ五感を刺激する食事が作られます。

精進料理の「精進」とは何か

精進という言葉は、古代インド言語であるサンスクリット語の「ヴィールヤ(virya)」の訳で、善を行い悪を断つために勇敢に立ち向かっていく「努力、勇気」を意味します。

大乗仏教においては、菩薩(悟りを求める者)になるための六つの修行として「六波羅蜜(ろっぱらみつ)」というものがありますが、精進はこの修行の一つと位置づけられており、ただひたすらに修行にいそしむという意味を持っています。酒肉を断ち、心身を清めつつ、ひたすら仏道にいそしむことを「精進潔斎(しょうじんけっさい)」などといい、邪念を捨てて仏道にいそしむ修行僧が食べる料理のことをやがて精進料理と呼ぶようになりました。

精進料理の伝来

日本に仏教が伝来したのは、古墳時代中後期の538年または552年のことと言われています。そして、飛鳥時代の675年には、天武天皇が仏教教義に基づいて「肉食禁止令(殺生禁断令)」を出したことを発端に、徐々に肉食がタブー視されるようになりました。

その後、清少納言が書いたとされる「枕草子」(995~1001年ごろ)には「とても粗末な精進料理を食べ・・・」といった意味の一文が見られることから、この頃には精進料理の概念が形成されていたのではとも考えられています。精進料理の基本がよりしっかりと確立されるようになったのは、そこからさらに時を経た「鎌倉時代」(1185~1333年)のことです。

曹洞宗(そうとうしゅう)の高祖である道元禅師は、中国の南宋での修行をした後(1227年)、禅寺の食事法を日本に持ち込み、それをさらに日本風にアレンジしました。その料理が、今日私たちがよく知る「精進料理」の基礎となっていると考えられています。 

精進料理の作法

精進料理における食事の作法は、宗派ごとに細かい違いはあるものの、主に以下の3つのタイミングで行われ、おおよそ同じような形式がとられているようです。

施食(せじき) 食前の儀式を行うこと
受食(じゅじき) 食事の給仕を受けること
行食(ぎょうじき) 実際に料理を食べること

食事中の作法(行食の作法)については、戒律の入門書である「教誡律儀(二時食法第八)」という仏書に、箸や器の扱い方がいろいろと定められています。しかし、日本仏教のほとんどの宗派では、その中のいくつかだけを実践している、あるいはまったく実践していないというのが実際のようです。

ただし、曹洞宗においては「赴粥飯法(ふしゅくはんぽう)」[※]が、食事の規範となっており、現在でもそこに記されてある事細かなルールに則って食事が行われています。

・食堂への入り方
・食事中の服装や姿勢
・器(鉢)の展開の仕方
・器や箸の持ち方
・咀嚼中の手の置き場
・食事のスピード
・こぼれた料理の対処の仕方
・おかわりの仕方
・洗鉢の仕方(器の洗い方) など

※. 1246年に曹洞宗の道元が記した書。受食や行食の作法や心構えが記されている

但し、私たちが寺院などを訪れて精進料理を楽しむ際には、当然このような厳しい作法は求められません(そもそも修行僧が食べている精進料理とはメニューが異なります)。食前と食後に合掌低頭をして「いただきます(ごちそうさまでした)」と言う、音を立てて食べない、料理を残さないといった基本的な食事のマナーさえきちんと守っていれば、精進料理を頂くにあたって特に問題はないでしょう。

定番の一品

寺院の僧侶たちが日常的に食べている精進料理は、以下のようなメニューが基本となっています。

・お粥(または麦飯など)
・味噌汁
・おかず(一品または二品)
・漬物(たくあんなど)

一方、私たち一般人が寺院を訪れた際や料理屋などで提供される精進料理は、ボリュームやおかずの種類が増やされていることが多いようです。おかずについては、宗派や地域、季節によって異なっていて、すべての寺院で同じものが作られているわけではありません。創作料理のようにユニークなおかずもたくさんあり、その数は今なお増え続けています。

精進料理の定番としては以下のようなものがあります。

・飛竜頭(ひりゅうず)[※] 
・太巻きずし
・けんちん汁
・高野どうふ
・ごま豆腐
・野菜の天ぷら など

※. ガンモドキのようなおかず

使ってはいけない食材

仏教の戒律には「不殺生戒(ふせっしょうかい)」というものがあり、生きているものを殺してはならないと定められています。そのため、精進料理では、肉や魚介類、卵などの動物性の食材は使用しません。また、料理に使用するダシも、鰹ダシやコンソメといった動物由来のものは使用しません。“生きているもの”の範疇には、野菜や果物なども含まれるとする考え方もありますが、仏教における不殺生戒では「追いかけて逃げるもの」、つまり動物を対象に殺生を禁じているようです。 

ただし、一部の野菜には食べてはいけないものもあり、「ニンニク、ニラ、ネギ、ラッキョウ」などの匂いの強い野菜は、精神が高ぶり「色欲」や「怒り」の気持ちが起こるとされているため、食べることが禁じられています。

お酒については解釈が分かれるところで、そもそも寺院内への持ち込み自体が禁止されているところもあれば、調理用(完全にアルコール分を飛ばすことが前提)に使用する分に限っては、使用が許されているところもあるようです。

精進料理で得られる効果

精進料理を食べ続けた場合、得られる効果として第一に挙げられるものは、やはり食生活の改善による健康効果ではないでしょうか。

精進料理は野菜がメインの料理ですので、食物繊維の摂取はもちろんのこと、それぞれの野菜が持っているファイトケミカルを摂取することもできます。食物繊維は腸内環境を改善させてダイエットに繋がりますし、ファイトケミカルの多くは強い抗酸化作用を持っていますので、美容やアンチエイジングに繋がります。

また、精進料理は余計な味付けをせず、素材の風味を十分に生かすように作られていますので、塩分をはじめとする余計な食品添加物の摂取を抑えることができます。それによって、むくみや高血圧、味覚障害などが改善される場合もあるでしょう。

さらに、精進料理の精神性(仏教の精神性)を深く学びながら食べれば、食材に対する感謝や作ってくれた人への感謝がより強く感じられるようになり、自己啓発にも繋がります。実際、寺院の修行僧たちは、精進料理を通して自身の精神を高めようと、毎日一生懸命修行をしています。料理(作ること、食べること)を修行の一環として捉え、自身を高めることができれば、フードロスの削減や夫婦関係の向上にも繋がっていくことでしょう。

さいごに

「おいしいものを食べたい」、「体に良いものを食べたい」、「お腹いっぱい食べたい」、「できるだけ安く食べたい」など、“食”に対する私たちの欲求はたくさんあります。しかし、そこには食に対する原初的な意味が欠落しているようにも感じられます。

飽食の時代に生きる私たち現代人には、なかなか実感しづらい感覚かもしれませんが、本来の食は生きることと直結した厳粛な営みです。また、食の概念においては、食べる主体である「自分」だけが存在しているわけではなく、「食材(料理)、作る人、食べる人」の三つの要素が存在しています。

「食材の生命に感謝できていますか?」
「相手を想いながら、料理を作ったり食べたりできていますか?」
精進料理の真髄は、それらに対する「深い気づき」にあると言っても良いでしょう。精進料理を作るとき(食べるとき)、あるいは食生活の改善を図る際には、まずはこのことをしっかりと意識する必要があるのかもしれませんね。


参考文献

奈良県HP「ますます知りたくなる大化の改新|仏教伝来の地」

https://www.pref.nara.jp/miryoku/aruku/masumasu/taika/column01/index.html

典座ネット「永平寺の精進料理」

http://tenzo.net/kokoro3/

書籍「お寺でいただく精進料理」伊豫田浩美 著

書籍「精進料理考」吉村昇洋 著

書籍「こまき食堂」藤井小牧 著