「ロコモ」ってどんな状態? | 水と健康の情報メディア|トリム・ミズラボ - 日本トリム

「ロコモ」ってどんな状態?

みなさんは自分の体力や筋力に自信がありますか?たとえば、階段を一段飛ばしで上がったり、手すりなどをもたずに椅子から立ち上がるといったことが、苦もなくできるでしょうか?もしそのような行為が難しくなっているなら、運動器の機能に異常が出ているのかもしれません。

運動器の機能が低下した状態は「ロコモ」と呼ばれ、放置していると「要介護」に繋がります。ロコモに「なる,ならない」は、私たちのQOL(人生の質)を大きく左右しますので、早めの対策が必要です。

今回は、現代病の一つである「ロコモ」について解説をしていきます。

ロコモとは?

ロコモとはロコモティブシンドロームの略名で、日本語では「運動器症候群」と言います[※]。運動器というのは、体を支え、運動を実施する器官のことで、具体的には「骨・関節・筋肉など」を指したものです。つまり、ロコモとは運動器の障害によって、その機能が低下し、起立や歩行などの日常生活が困難になった状態を指しています。

ロコモは、国の介護予防・健康対策などの方針を受けて、2007年に日本整形外科学会によって提唱された比較的新しい言葉です。名前の響きはカワイイですが、その状態になってしまうとQOL(人生の質)は一気に下がり、最終的には「寝たきり」や「要介護」の未来を招く、とてもおそろしい状態なのです。

※. 「ロコモティブ」という言葉には「移動能力がある」という意味があり、蒸気機関車(スチームロコモティブ:SL)の名称にも使われています。

ロコモを招く原因

上記でも触れましたが、運動器は「骨・関節・筋肉」などを含めた運動を行うための器官全般を指しますので、ロコモになる原因については、運動器ごとに異なります。

「骨・関節・筋肉」の代表的なロコモ疾患は、以下の三つです。
①【骨の疾患】─── 骨粗しょう症
②【関節の疾患】── 変形性膝関節症[※] 
③【筋肉の疾患】── サルコペニア

それぞれについて、見ていきましょう。

※. 関節の疾患としては、他にも「腰部脊柱管狭窄症」などが有名です。

骨粗しょう症

骨粗しょう症とは、骨の組織がスカスカになった状態のことです。

骨粗しょう症になる主な原因は、次の3つです。
・腸でのカルシウムの吸収不足
・血液から骨へのカルシウム流入の低下
・骨から血液へのカルシウム流出の増加

腸から吸収するカルシウム量が長期にわたって低下すると、血中カルシウム濃度が低下し、骨から血液中へのカルシウムの流出が増加し続け、骨のカルシウムが減少します。また、女性ホルモン「エストロゲン」が減少すると、血液から骨へのカルシウム流入が低下して、骨のカルシウムが減少します。さらに、エストロゲンによって分泌が促進されていた、もう一つの骨形成ホルモン「カルシトニン」も、エストロゲンの減少にともなって分泌量が低下し、骨粗しょう症を加速させます。

あと、稀な病気ですが、「副甲状腺機能亢進症」によって甲状腺ホルモンの過剰分泌が起きると、骨から血液へのカルシウム流出が増加して、骨のカルシウムが減少してしまうと言われています。

骨粗しょう症を食事の面から予防する場合、カルシウムの摂取とあわせて「ビタミンD・ビタミンK」を含んだ食品を一緒に摂取することが有効と言われています。また、運動することによって骨が刺激され、骨へのカルシウム移行が高まるため、適度な運動も有効と言われています。

変形性膝関節症

変形性膝関節症とは、膝関節の軟骨が摩耗して、炎症による膝関節の痛みや変形が生じている状態のことです。膝の痛みを訴える人の多くは、この変形性膝関節症を患っているとも言われています。

変形性膝関節症は、加齢や肥満、脚の筋肉の衰え、膝の負担の大きい過度のスポーツなどが原因として挙げられます。特に、女性は男性と比べて膝を支える筋力が弱いため、膝関節への負担が大きくなり、変形性膝関節症になりやすいと言われています。また、O脚が多いことや、ヒールの高い靴を履く習慣があることなども、変形性膝関節症が女性に起こりやすい理由として考えられています。さらに、中年以降の女性の場合、女性ホルモンの減少によって骨密度が低下するため、それによって膝関節の変形を進行させやすくなるのです。

すり減ってしまった軟骨は元には戻らないので「予防」が大事ですが、対処法としては肥満の解消や靴の是正などが挙げられます。ちなみに、グルコサミンやヒアルロン酸、コンドロイチンなどの経口サプリの摂取によって、軟骨量が改善するという実証はないと言われています。 

サルコペニア

サルコペニアとは、筋肉が減った状態のことです。人は誰でも40歳頃から筋肉量が減少していくため、高齢者にもなれば体の筋肉量が少なくなるのは自然であり、当然と言えば当然のことです。しかし、その減少の度合いが平均よりも高度で、ある種、病的な減少を見せる場合には「自然の摂理」などとは言っていられません。

サルコペニアは、寝たきりで運動しないために筋肉が衰える、いわゆる「廃用(性)萎縮」によるサルコペニアと、「加齢」によるサルコペニアがよく知られています。たとえば、高齢者の方が、骨粗しょう症によって大腿骨骨頭部(脚の付け根)を骨折してしまった場合、大抵は「寝たきり」になります。そして「寝たきり」になることによって廃用萎縮が起き、サルコペニアに陥ってしまうというケースもよくあるようです。

加齢によるサルコペニアについては、主な原因として次の三つが挙げられます。
・肉食頻度の低下
・運動不足によるタンパク質合成の低下
・活性酸素の蓄積量増加によるタンパク質の分解

肉食頻度の低下については、単純に「筋肉の原料となるタンパク質」が不足していることを意味しています。そして高齢者の場合、食が細くなるだけでなく、運動量も落ちていきます。適度な運動はタンパク質の合成を刺激するのですが、運動量が落ちてしまっては合成も進みません。また、加齢とともに体は活性酸素が溜まりやすくなり、その活性酸素が筋細胞を傷害して、筋肉のタンパク質分解も進みます。

筋肉量の改善には、ロイシンなどのアミノ酸を含んだ食品(肉、魚、牛乳、チーズ、納豆など)をしっかりと摂り、筋トレ(レジスタンス運動)を行うことが有効とされています。

静かに進行して要介護へ

ロコモになると、歩くと膝がズキズキ痛み、つまずきやすくなり、転んだだけで骨折する、といったことが起きやすくなります。そのような状態になると、大抵の人は散歩や買物を控えるようになり、活動範囲が自宅内に限定されるようになります。痛みや転倒、骨折のリスクを一時的に避けることはできますが、それによって活動量も低下しますので、筋肉や骨への刺激も少なくなり、ロコモがさらに進行していきます。

また、メタボの人の場合、ロコモが進行してしまうと、メタボ改善に必要な運動が行えなくなるため、その点からも健康を害していくことになるでしょう。「運動器の機能が低下 → 動くのがイヤ(恐い)→ じっとしている → 運動器の機能が低下・・・・」このスパイラルに陥ると、たどり着くのは「寝たきり」や「要介護」です。

「私はまだ若いから・・・」、「特に痛みが出ていないから・・・」と思われている人であっても、足腰への負担が極端に大きい仕事やスポーツを長期間行っている人や、長時間同じ姿勢でデスクワークをしている人などは、将来ロコモになってしまうリスクが高いと言われています。さらに極端な話をすれば、ロコモは子ども時代から芽吹いているとも言われています。子ども時代に「しっかりと運動していなかった人」または「過度な運動を繰り返している人」などは、関節の変形や骨の損傷が大きく表れてくる可能性もあるのです。

ロコモは、若くて健康そうに見える人であっても、実は静かに進行している可能性がありますので、決して無関心ではいられないのです。

ロコモになっているかを確認しよう

ロコモになっている可能性があるかどうかを、簡単に確認する方法があります。以下は日本整形外科学会による確認方法で、①~⑦の項目のうち、一つでも当てはまっていれば「ロコモの可能性がある」とされています。

【ロコチェック】
① 片脚立ちで靴下がはけない
② 家の中でつまずいたりすべったりする
③ 階段を上がるのに手すりが必要である
④ 家のやや重い仕事が困難である(掃除機の使用、布団の上げ下ろしなど)
⑤ 2kg程度の買物をして持ち帰るのが困難である(1リットルの牛乳パック2個程度)
⑥ 15分くらい続けて歩くことができない
⑦ 横断歩道を青信号で渡りきれない

(ロコモONLINE「ロコチェック」より)

上記の確認方法では、ロコモに「なっているか,なっていないか」を確認することができます。

しかし、ロコモは「予防する」ということも大切ですので、そういった意味では「ロコモ予備軍」となっているかどうかを確認する方法も知っておいた方が良いでしょう。以下は、日本体育協会公認アスレティックトレーナーの曽我武史さんが提唱している確認方法で、①~⑩の項目のうち、一つでも当てはまっていれば「ロコモ予備軍の傾向がある」とされています(あてはまる数によって程度は異なります)。

【曽我式ロコモ予備軍チェック】 [※] 
① 階段の上り下りが前よりつらくなった
② 坂道を一定のペースで上ることができない
③ 30分ほど歩き回っていると、どうしても休みたくなる
④ 水たまりをまたがずに、横に避けて通る
⑤ 椅子に座るときに、ドサッと座ることが多い
⑥ 重いものを持つとき慎重になる
⑦ 座っているとき、気がつくと猫背になっている
⑧ 電車で降りる駅が近くても座ってしまう
⑨ つい手すりにつかまってしまう
⑩ 寝ても体の疲れがとれない

(1~3個:軽度の予備軍、4~7個:中度の予備軍、8個以上:重度の予備軍)

※. 各項目についての詳細は、書籍「運動しても自己流が一番危ない」で解説されています。

健康寿命を延ばす為に

皆さんは「健康寿命」という言葉をご存じでしょうか?これは「介護を必要とせずに、自立した生活ができる生存期間」のことを指します。平均寿命と健康寿命の差が小さければ小さいほど、充実した人生を送れる可能性が高くなるということです。

健康寿命をのばす(平均寿命との差を小さくする)取り組みとしては、良質な睡眠や食事、メンタルケアなど、さまざまな要素が挙げられますが、ロコモ予防も大変重要となります。ロコモ予防として、特に重要視されるのが「定期的な検診」と「運動」です。

特に女性は、40歳ごろから女性ホルモン「エストロゲン」の分泌量が減少していき、閉経後にはさらに大幅に減少しますので、40歳を過ぎたら毎年「骨密度検査」を受けるようにした方がよいでしょう。

運動については、ロコモになっているか、なっていないかによって、負荷の与え方に違いが出てきますので、無理をするのは禁物です。まずは、日常生活を送る上で「姿勢を正す」ことから始めていきましょう。そして、様子を見ながら軽めのスクワットや片足立ちなどを取り入れていき、下半身を優先的に強化していくとよいでしょう[※]。

また、できればこういった運動は、ロコモや要介護状態をさけるという目的のためだけに行うのではなく、いずれはスポーツやゲームなど、趣味の中に落とし込んだ形で、楽しみながら行って頂きたいと思います。健康寿命を延ばすためとはいえ、嫌な思いやつらい思いをするようでは、それはそれで充実した人生とはかけ離れてしまうことになります。「楽しみながら健康寿命を延ばす」、これこそが理想の形と言えるでしょう。

※. 詳しいやり方については、日本整形外科学会の公式サイト「ロコモONLINE」の中で、「ロコトレ」として紹介されています。

さいごに

国民栄誉賞にも輝いた、日本の大女優である森光子さんは、92歳でお亡くなりになりました。

森さんは70歳ごろ、ケガをしたことがきっかけで、本格的にトレーニングを始めたそうです。「スクワット毎日150回」という凄まじいメニューはあまりにも有名で、80歳を過ぎてもなお、このトレーニングを続けていたと言われています。その結果もあって、舞台「放浪記」の主役は2017回も演じられ、日本国民や後進俳優に大きな影響を与えました。しかし、彼女の影の努力はスクワットだけではありません。ストレッチ(柔軟性)、バランスボール(安定性)、エアロバイク(持久性)、コンディショニング(休養)など、マルチに取り組んでいたそうです。

森さんは芸能の世界では、もはや偉人のレベルに達していて、ここまでの取り組みはなかなかマネすることはできません。しかし、森さんがトレーニングを始めた年齢や、89歳まで舞台に立ち続けたという事実は、私たちに「トレーニングを始めるのに遅すぎることはない」ということを教えてくれているようにも思えます。

中年の方はもちろん、高齢者の方も、今日から少しずつでもトレーニングを始めてみてはいかがでしょうか。


参考文献

ロコモONLINE(日本整形外科学会)「ロコチェック」

https://locomo-joa.jp/check/lococheck/

書籍「健康になる食べ物と栄養素の教科書」藤原大美 著

書籍「新国民病ロコモティブシンドローム」中村耕三 著

書籍「運動しても自己流が一番危ない」曽我武史 著

書籍「知られざる国民病「ロコモ症候群」」平石 貴久&剱木久美子 共著