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「機能性ディスペプシア」とは

慢性的な胃の不調でお悩みですか?
胃の不調は、私たちから食事の楽しみを奪うだけではなく、生活を営むために必要な活力をも奪います。症状が長引いている場合には、できるだけ早く医療機関で診察してもらいましょう。

ただ、受診前に一つだけ知っておくと便利な言葉があります。それは「機能性ディスペプシア」という病名です。あまり聞きなれない病名かもしれませんが、胃の不調で受診する人の4~5割は、この病気と診断されていると言われており、ある意味とてもメジャーな病名です。受診される前に機能性ディスペプシアについて知っておくことは、医師との円滑なコミュニケーションに役立ちます。

以下の内容を参考にして、機能性ディスペプシアについての理解を深めましょう。

機能性ディスペプシアとは

胃の検査を行っても何の異常も見当たらないのに、慢性的に胃の不調が続いている状態(病気)のことを「機能性ディスペプシア」といいます。一時的な胃もたれと混同される人も多いようですが、その状態とは異なります。

まずは「機能性ディスペプシア」という病名について、簡単に説明をしておきましょう。

  • 機能性

・働きを意味する英単語「Functional」の和訳名

  • ディスペプシア

・消化不良を意味するギリシャ由来の英単語「Dyspepsia」の語音をカタカナで表したもの

この二つの英単語を並べると「Functional Dyspepsia」となりますが、呼びにくいので医療関係者の間では「FD」と略されることが多いようです。

語源や略語についての大まかな説明を終えたところで、いまだ残る疑問としては「機能性」という言葉ではないでしょうか。この機能性という言葉については、もう少しだけ説明を続けたいと思います。

機能性ディスペプシアを医学的な言葉を使って簡単に定義すると、以下のようになります。

【 胃に器質的な異常は見られないが、機能的な異常がある病気 】

医学において、器質とは生体器官の実質組織を指しており、ここでは「胃の組織」を指しています。一方、機能とは「胃の働き」を指しています。「働き」ですので、基本的には目(内視鏡やレントゲンなど)で異常を確認することはできません。

つまり「機能性ディスペプシア」は、見た目には何の異常も見当たらないのに、慢性的に胃の不調が続いている状態を表している言葉(病名)なのです。目で見ることができないため、認識しづらく、診断しにくい病気としても知られています。

実際、十年ほど前までは医療機関でも「気分的なもの」と捉えられ、神経性胃炎や慢性胃炎、胃アトニー[※1]などと診断されていました。しかし、似た症状を訴える人の数が増加したことや、さまざまな研究の成果などによって、正式に「機能性ディスペプシア」という診断名(保険病名)が、2013年5月に付けられることになりました[※2]。

※1. 胃下垂によって胃の筋肉がたるみ、胃の動きが悪くなった状態です。
※2. 治療には公的医療保険(健康保険)が使えるようになりました。

慢性的って、どれくらいの期間?

上記では、機能性ディスペプシアの特徴の一つとして「慢性的な胃の不調」と説明をしました。しかし、この「慢性的」という言葉は、一体どれくらいの期間を指しているのでしょうか?

結論から言いますと、その期間は医者の判断によって異なります。こう言ってしまうと身もフタもありませんが、実際「機能性消化管疾患診療ガイドライン2021」においても、期間については定義がされていません[※]。

“症状の原因となる器質的、全身性、代謝性疾患がないのにもかかわらず、慢性的に心窩部痛や胃もたれなどの心窩部を中心とする腹部症状を呈する疾患”
日本消化器病学会|機能性消化管疾患診療ガイドライン2021 ─ 機能性ディスペプシア(FD)(改訂第2版)

ただし、1週間に2~3回以上、胃の不快症状が起きていて、その状態が1ヶ月以上続いている場合には、機能性ディスペプシアを考慮に入れてもよい、という一応の目安を示している医師もいます。

※. 国際的な基準では「症状が6ヶ月以上前から出現して最近3ヶ月間続いていること」という定義(臨床研究を行う場合の基準)もありますが、現実的にはそれほど長く放置されることは考えにくいため、当該ガイドラインの定義には採用されていません。

主な症状

医学的に、機能性ディスペプシアの症状には、主に2つの特徴があるとされています。

①【食後の不調】
早期満腹感:食事をとり始めてすぐにお腹が一杯になり、それ以上食べられない感覚
食後膨満感:食後にお腹がはったり、もたれたりする感覚

②【心窩部の不調】[※] 
心窩部痛:食後や空腹時に、みぞおち付近に感じる痛み
心窩部灼熱感:食後や空腹時に感じる、みぞおち付近の焼けるような感覚

ここから、機能性ディスペプシアの症状を簡単にまとめると、以下のようになります。
・胃もたれ、胃痛、満腹感を感じる
・食前、食中、食後に現れることがある

そして、これらの症状は、単独で現れたり、複数同時に現れたり、日ごとに変わって現れたりすることがあります。

※. 心窩部(しんかぶ):みぞおち付近のこと。

機能性ディスペプシアの原因

機能性ディスペプシアの主な原因は、ストレスです[※]。

胃腸は「交感神経」と「副交感神経」という2つの自律神経によって、その運動がコントロールされています。しかし、ストレスを受けるとそれらのバランスが乱れ、以下のような状態に陥ります。

・胃の運動機能の異常
・胃の知覚過敏

この2つの状態について、もう少し詳しく見ていきましょう。

※. ストレスを感じると、脳の視床下部からCRF(コルチコトロピン・リリーシング・ファクター)というストレスホルモンが分泌されます。これが「胃の運動機能の異常」や「胃の知覚過敏」を引き起こしていると考えられています。

胃の運動機能の異常

本来、胃は食べたものが食道から降りてくると、胃底部[※]が大きくふくらんで、食べたものを受け入れようとします。しかし、ストレスを受けて胃の運動機能が障害されると、そのふくらみが悪くなるため、食事を始めてすぐに満腹感が起きてしまいます。

また、他にも「食べたものを細かく砕く運動」や、「十二指腸へと食べたものを送り出す運動(蠕動運動)」も悪くなるため、消化不良で胃がもたれやすくなります。

※. 胃の上部付近。手術時には胃を下から眺めることになるため、胃の上部付近を胃の底、「胃底部」と呼んでいます。

胃の知覚過敏

本来、胃は胃内で胃液(胃酸)が分泌されても、痛くもかゆくもありません。しかし、ストレスを受けて胃が知覚過敏になると、通常の胃液の分泌量であっても、脳が痛みとして誤認して胃痛を引き起こすことがあります。

また、「食べたものを細かく砕く運動」や、「十二指腸へと食べたものを送り出す運動(蠕動運動)」の際に行われる「胃の収縮運動」も、通常時は何の問題もありませんが、知覚過敏状態では胃痛として感じられることがあります。

機能性ディスペプシアの診断

医師は機能性ディスペプシアの診断にあたって、まず問診を行います。

問診内容は、以下のようなものが挙げられます。

・どこで症状が起きているのか
・どのような症状なのか
・いつごろから症状が起きているのか
・どのタイミングで症状が起きるのか
・体重の減少はあるか
・他の病気はあるか
・薬を服用しているか など    

次に他の病気(胃ガン、胃潰瘍、十二指腸潰瘍など)によって、胃の症状が出ている可能性もあるため、必要に応じて以下のような検査を行います[※]。  

・内視鏡検査(胃カメラ)
・ピロリ菌感染検査
・血液検査
・超音波検査
・腹部CT検査 など

さらに、機能性ディスペプシアの診断の決め手となる、以下の2つの検査を行います。

【胃排出機能検査】
・十二指腸へと食べたものを送り出す運動(胃排出)が正常に行われているかを調べるテスト
・特殊な炭素を含んだ食品を摂ったあと、呼気を測定する

【ドリンクテスト】
・胃がどれくらいの量の食べ物を受け入れられるかを調べるテスト
・一定量の水やドリンクを飲み、腹部膨満感の強さと持続時間を調べる

※. 必ずしもこれらすべての検査を行うわけではありません。医師の判断によっては、これらの検査を行わずに機能性ディスペプシアと診断する場合もあります。

機能性ディスペプシアの治療

機能性ディスペプシアとして診断が下ると、薬を処方してもらえます。

胃の運動機能に異常がある場合

【アコチアミド】
・胃の運動機能を助ける神経伝達物質「アセチルコリン」の働きを高める
・胃のふくらみを改善し、食べ物の排出を促す
・内視鏡検査なしには処方されない

【六君子湯(りっくんしとう)── 漢方薬】
・血流改善効果が期待できるヘスペリジン[※]という成分が含まれている
・この成分が胃をゆるませて、運動機能を高める
・薬局でも購入することができる 

胃の知覚過敏が起きている場合

【胃酸分泌抑制薬】
・プロトンポンプ阻害薬(PPI)── 胃酸を作り出す信号をブロックする
・H2受容体拮抗薬(H2ブロッカー)── 胃壁細胞から出るヒスタミンH2受容体に働き、胃酸分泌を抑える
・「H2受容体拮抗薬」は薬局でも購入することができる(商品名「ガスター10」など)

こういった薬を服用して改善が見られるようなら、その薬の服用を続けます。逆に改善が見られない場合には「二次治療」に移行して、薬の変更をしたり別種の薬を併用したりします。二次治療では、機能性ディスペプシアの原因である「ストレス」にもアプローチして、抗うつ剤や抗不安薬などを用いることもあります。

※. 六君子湯の原料の一つである「陳皮(ちんぴ)」に含まれている成分です。

生活習慣を見直そう

機能性ディスペプシアの改善には、生活習慣の見直しも欠かせません。先の説明では、機能性ディスペプシアの主な原因に「ストレス」を挙げましたが、食生活の乱れも決して無関係ではありません。医療機関での診察や治療とあわせて、「メンタルケア」と「食生活の見直し」にも並行して取り組むことが大切です。

メンタルケアに関しては、環境の整理(人間関係や住環境など)や、本人の意識の持ち方が大切ということは一般的に知られていますが、近年ではそれらの要素に加えて「脳腸相関」という理論も注目を集めています。これは、腸内環境を改善することで、脳で感じるストレスが軽減されるという理論です。ストレス対策だけではなく腸内環境の改善にも役立ちますので、まさに一石二鳥の理論と言えます。

以下の記事では、この「脳腸相関」の理論について詳しく解説していますので、気になる方は参考にしてみて下さい。
【脳腸相関とは?脳と腸の関係性について解説】
https://www.nihon-trim.co.jp/media/30283/

また、食生活の見直しにおいては「何をどのようにして食べるか」がポイントです。
具体的には以下のようなものが挙げられます。

・短時間で食べない[※1] 
・よく噛んでから飲み込む[※2] 
・欠食をしない
・過食をしない
・脂っこいものをたくさん摂らない
・辛いものをたくさん摂らない
・冷たいものをたくさん摂らない[※3] 
・食事中に心配事を連想しない

※1. 胃底部が膨らむ反応は、食べ始めて約15~20分後に最も強まると言われています。
※2.胃に負担をかけないという意味もありますが、咀嚼によって胃の働きをよくする迷走神経が刺激されるという意味もあります。ひと口20~30回くらい噛むと良いと言われています。
※3. 熱いものが胃に悪影響を与えることは、それほどありません。

上記のリスト内容は、多くの方が知っている一般的な食生活の改善項目だと思います。しかし、最後に挙げている「食事中に心配事をしない」という項目に関しては、注意して取り組んでいる人は少ないかもしれません。機能性ディスペプシアに悩まされている人は、食事中や食後に再び症状が現れるのではないかと、心配しながら食べている人が多いようです。また、職場での昼食時に、ずっと仕事のことを考え続けてしまう癖を持っている人も多くいるようです。心情はお察ししますが、このような食べ方をしていると、機能性ディスペプシアを誘引することになります。料理の味や香り、盛り付け、団らんでの食事などを楽しみながら食べるようにしましょう。

食生活の改善においては、食べ物の他に「飲み物」にも気を付けなければいけません。コーヒーやアルコール、炭酸飲料などは、胃に強い刺激を与えることになりますので、控えた方がいいでしょう。逆に、積極的に摂取をオススメできる飲み物としては「電解水素水」が挙げられます。このお水には「胃腸症状の改善効果」が認められていますので、一度試してみるとよいかもしれません。

以下の記事では、電解水素水について詳しく解説していますので、ぜひ参考にしてみて下さい。
【付加価値を持つ水とは?腸活に役立つ電解水素水について解説!】
https://www.nihon-trim.co.jp/media/29468/

さいごに

本文でも説明をしましたが、機能性ディスペプシアは「ストレス」と強い関係性があります。そのためメンタルケアは、各自が取り組むべき重要な課題です。

しかし、人によっては、そういった問題意識こそが逆にストレスになってしまうこともあるかもしれません。そのような人は「問題を解決する」と考えるのではなく、「人生をより楽しむ」と考えてみてはいかがでしょうか。暮らしにユーモアを取り入れ、何事もジョークとして捉えることも、その方法の一つと言えるでしょう。

機能性ディスペプシアは、私たちに「人生に楽しみが足りていない」ということを、体の不調を通じて教えてくれているのかもしれません。


参考文献

さんぽうよしさくら医療グループ さくら医院「胃の病気「機能性ディスペプシア」をご存知ですか?」

https://sakura-nk-clinic.com/symptom/40-functional-dyspepsia/

DI Online「機能性ディスペプシア」

https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/di/digital/201505/541915.html

ゆたか倶楽部「胃下垂について」

https://www.d-yutaka.co.jp/blog/health_and_beauty/health_info202101/

日本消化器病学会「機能性消化管疾患診療ガイドライン2021」

https://www.jsge.or.jp/guideline/guideline/pdf/fd2021r_.pdf

書籍「長引く胃痛・胃もたれ・吐きけの正体 胃の機能性ディスペプシア」文響社 出版

書籍「専門医が教える おなかの弱い人の胃腸トラブル」江田証 著

書籍「胃は歳をとらない」三輪洋人 著